「マネキンの話 ーマネキン作家が語るー 欠田 誠」

第51話 マネキン界の再構築に向かって

マネキンFW960

店舗設備の総合見本市として、3年に1度開催されるユーロショップが今年(2011年)2月26日から3月2日までドイツ・デュッセルドルフで開かれました。ユーロショップにはかつて日本のマネキン会社も参加してマネキンを発表してきましたが、今日では日本からのマネキンの出展はほとんど見られなくなっているようです。然し世界のマネキン・ディスプレイの傾向、を知る催しとしてこの機会に日本の各マネキン会社からヨーロッパのマーケットリサーチを兼ねてユーロショップを見学すると言うのが恒例になっているようです。今回、関心があったのは、ここ数年ボディー全盛の時代からシュラッピーマネキン風の所謂抽象的な顔、手先のマネキン一辺倒な時代が続いていますが、そろそろ次の時代に向けて新しいマネキンが現れるのでは無いかという期待がありました。今回、VMDのツールとしてよりエンターテーメント性の強い抽象的な新しいタイプのマネキンにマネキンの新たな可能性を感じていました。日本の都市の主要なデパートでいち早くそれらのマネキンを使ったディスプレイが見られ、長引く不況が続く中、更に混沌とした政治情勢に閉塞感を募らせていた市場に、マネキンの新たな役割、を感じていたところでした。

そんな矢先に、時代を一変する東日本巨大地震が発生しました。今回の地震と津波による災害は1000年来の規模との事ですが更に原発事故が加わり現代に生きる私たちは未曾有の災害を体験することになりました。日本は戦後、壊滅状態から驚異的な速さで復興し経済大国を作り上げました。これを日本の第1次復興とすれば今回の第2次復興は更に大きなエネルギーが必要ではないかと思っています。飽食の時代を経験している我々は大きな意識改革が必要です。私の知る限りマネキン企業も被害を受けていますが。このような時にマネキン・ディスプレイの力で何が出来るでしょうか?・ディスプレイを控えるとか、自粛するという発想ではなく、マネキンの力で今の社会にどのように役立つ事が出来るのか、日本の復興の為にどんな活力を与える事ができるのかと言う発想で、それぞれの企業が結束すべき時では無いでしょうか。

日本のマネキン企業はライバル意識が強くそれが競争意識を高め大きくなってきました。オリジナリティー、独創性が重んじられるマネキン界でも厳しい競合の世界で企業間では勝ち組、負け組み等の言葉が横行し互いに存続をかけて戦ってきました。過度な競争と成長を追及して、私達は果たして豊かになれたのでしょうか?私たちマネキン・ディスプレイの仕事は人々の精神を豊かにする人間の営みに不可欠な大事な役割を担った仕事だと言う思いを新たに、競争から一歩離れて結束へ、これまでの価値観から転換し、新たなマネキンの世界を構築させたいものです。結束には新たにコーディネイトする能力が求められますが。先ずマネキン制作の根幹を担う私達造形作家自らが意識改革を行い新たな価値観を持って行動する事が先決では無いでしょうか。

戦争で中止されたマネキンは、戦後、戦災で廃墟と化した衣どころか食もままならぬ情況の中、悲惨な戦場で九死に一生を得て復員した東京芸術大を卒業した若い芸術家たちによって復活されました。彼らはマネキン制作を芸術家が世の中に関わっていく使命感として、芸術家の社会運動としてマネキンの制作に取り組むと言う心意気がありました。マネキン制作の基本的な使命は今日でも変るものではありません。これからの日本の新しい世界観、価値観から、新しい時代が求める、世界から共鳴されるマネキンが生まれる事を信じたいと思います。

この度の災害で被害にあわれた多くの方々に心からお見舞い申し上げます。
一刻も早い復旧をお祈りしております。

  • 写真:ウインドーシリーズより マネキンFW960 写真 筆者