「マネキンの話 ーマネキン作家が語るー 欠田 誠」

第50話 マネキンの企業と原型制作

ドローイング

マネキンの造形は人体造形(人体彫刻)の一分野であり美術学校で彫刻を学んだ学生が職業としてマネキン会社に就職を希望することはごく普通の事だと思いますが彼らが現在美術学校でマネキン制作を実際に学ぶ事は出来ません。然しマネキンはディスプレー・デザインの世界では必要不可欠なものでマネキンの使い方、生かし方については美術学校や専門学校の空間デザインやディスプレーやファッションを選考した学生は教科で学ぶ事ができるようです。

リアルな人体彫刻が得意だからと言ってマネキンが作れるわけではありませんので、彼らは企業に就職してから始めてマネキン作りを学ぶ事になります。

やる気とある程度リアルな仕事ができる事が最低の条件ですが、後はどのような作家に成るかは企業側の力量が大きいと私は思っています。作家にはマネキン制作を通して如何に社会に係わっていくかという意識が大事だと思います。

今日、人体造形の考え方はずいぶん変わって来ました。素材や表現方法も自由で、かつて彫刻の世界ではタブーとされていたような表現方法を積極的に採用したり、3Dによる造形も実用化されるなど表現の可能性が大きく広がっています。マネキンの企業はディスプレーや製造の仕事を通して他の分野とかかわりが多くありますので関心さえあればマネキンの造形に役立つ情報は多く得られるようです。それを実際に形に実現できるのも企業の力だと思います。

ミニチュア(部分)

1959年、日本のマネキン企業がFRP樹脂によるマネキンを完成させたことによって、いろいろな造形物がFRP樹脂で作られるようになりました。美術界でも多くの作品がFRP樹脂で作られています。現代美術の展覧会などで目にするブロンズや石やテラコッタの作品と思われる彫刻も、実はFRP樹脂で作られたものが多くあります。

FRP樹脂はマネキンの製作にはとても適した素材ですが、環境に対する意識の高まる今日ではポリエステルに変わる新しい素材の開発が世界のマネキン界で共通の課題になっています。

この度、ヤマトマネキン社が二酸化炭素(CO2)の削減とリサイクル性を訴求して新しい素材によるバイオマスマネキンの開発に成功しました。ヤマトマネキンは1999年に環境保護をテーマに紙を素材にしたエコマネキン「ホリディ」シリーズを開発しており、環境問題に積極的に取り組む企業として注目されます。

人体造形の素材を環境問題の視点で捉えているのはマネキン界ならではのことです。新たな素材や工法は新たな造形思考を生み作品そのものを変えます、其れは人体彫刻の世界の変化と呼応するものだと思っています。マネキン造形の新たな可能性を感じます。

  • 写真上段より:
     1)ドローイング 2011年 アクリル絵の具・ワックス
     2)ミニチュア(部分)2011年 FRP樹脂・特製パラフィン

     作品・撮影 筆者