「マネキンの話 ーマネキン作家が語るー 欠田 誠」

第17話 ボディ・トルソの開発

服を着せて立体的に展示するためのボディ・トルソは簡便で商品をビジュアルに分かりやすく見せることが出来るなど販売促進の効果も高く、今ではいろいろな売り場で数多く使われていま ボディが開発されたのはFRP樹脂がマネキンの素材として実用化されるようになってからですのでボディの歴史はそれほど古いものではありません。

それまでの、ファイバーでマネキンを作る工法は京人形の作り方を応用した日本独自のもので、紙を素材に胡粉を何度も塗って仕上げる方法は多少の変形は免れず、同じ形を正確に復元する(シビアなサイズや形が要求されるボディ制作には欠かせない要素ですが)ということよりも1作ずつ手作りで作品を作るという意識が強かったと思います。ファイバー時代には優れた技術者たちによってきわめて芸術性の高いマネキンが作られましたが、今日 現物はほとんど残されておらず、写真資料でしか知ることが出来ません。

FRP 樹脂は軽くて丈夫で、対抗性に優れ、原型の形がかなり正確に復元できる等、更に大量に生産するための工法が可能であるなど、それらが今日の、ボディ・トルソの開発とボディを数多く普及させた大きな要因でもあったと思います。 造形作家たちにとって、FRP樹脂との出会いは衝撃的でした。私はFRP樹脂で幾つかのタイプのボディを創って1962年(昭和37年)七彩の展示会で発表しました。(写真参照)肩のラインはなで肩でウエストは細く、後ろで布をピンで留めて形を整え このシルエットは当時の服の見せ方、展示方法の典型的なスタイルでした。全身を作る人体造形よりもボディはオブジェとして更に強調できるのでこんなフォルムを創ったと記憶しています。マネキンとは異なった新しいディスプレー 展示の可能性をボディで提案したもので、今のボディとはかなり違ったものでした。

以来、約半世紀、幾多の変遷をたどり今日のボディのスタイルが出来上がりました。今のボディも時代と共に更に変化していくでしょう。

  • 写真上段左より:
     1)新製品紹介・展示器具シリーズとして紹介されたもの(1962年)
      原型制作 欠田 誠
      抽象的な胸像。上下に透明なポリエステルを付けて、単調さをふせいでいる。
      肩と胸を普通サイズで作ってあるので、着せ付けは簡単である。
      ウエストを絞めるだけで、しゃれた感じになる。(商店建築 誌より原文のまま)
     2)ボディは強化プラスティックに銀箔を張り 腕金具は取りはずし可能である
      スタンドはウォールナット製(制作1962年)
     3)ボディは強化プラスティック
      スタンドで角度が自由に変えられる壁に取り付けることも出来る(制作1962年)
     4)ボディは強化プラスティックに和紙貼り込み(姉妹品にウレタン塗装のものがある)(制作1962年)
     5)ボディは強化プラスティック カラー樹脂使用 上から吊るして使用できる(制作1962年)

     (写真2~5提供と原形制作 筆者)