「マネキンの話 ーマネキン作家が語るー 欠田 誠」

第16話 抽象的な顔のマネキン

FIGURE MANNEQUIN

マネキンと言えばスーパーモデルの様なプロポーションをした魅力的な女性像をイメージすると思います。あたかもそこにモデルの女性がいるかと思われるようなリアルに作られたマネキンは、年齢やタイプなどが具体的に表現されており、店のイメージやファッションのイメージとマッチしたマネキンを選択する事によって、強いVP(ビジュアル プレゼンテーション=店の主張や考えを視覚的にアピールする事)効果を得る事が出来ます。

一方、マネキンは服を着せるための道具、ディスプレーのための道具であると言う視点からマネキンを見た場合、特別、リアルに人体を表現することにこだわる必要も無いわけで、表現方法や素材などマネキン造形の可能性は広がり、いろいろな選択肢が考えられます。しかし、マネキンを使う事によって店のイメージ、ブランドイメージを高めることに役立つ事、そして其のマネキンに着せる事によって商品が売れるという販売促進の効果が得られると言う事がマネキンの役割である事に変わりはありません。

今市場では顔の無いヘッドレスマネキンや抽象的な様式のマネキンが多く使われており主流を成しています。これ等のマネキンも開発当初は、従来のリアルマネキンとは違った商品展示の効果が得られる新しいマネキン、として一部のハイファッションの展示などに使われたことがデビュウのきっかけでした。

マネキン表面・クロームメッキ仕様

私が半抽象的なマネキンを制作したのは1977年で(写真参照)。より彫刻的に、アート性を指向した造形で、高級なファッションの展示や商空間の演出に適したマネキンの開発を目指しました。表面の仕上げはFRP樹脂に蒸着メッキを施したり、特殊な、ウレタン塗料を使ったり、マネキンを立てるベースも透明で丈夫なアクリル板を使うなど、高級感、アート性にこだわりました。結果、価格も普通のリアルマネキンに比べかなり高価なものになりました。

開発当初は珍しくて特殊だった商品も、後に多く使われ市場に定着する事によって、ベーシックでメジャーな商品となります。

抽象的な様式のマネキンはリアルタイプのマネキンよりイメージを固定する事が少なく、いろいろなファッションに幅広く対応できて使いやすく、表面の仕上げも木目調であったり石彫風であったりメタリック塗装を施したり、いろいろな表現が可能です、高級感も出せる一方 簡単な単色吹きで普及版にも対応することも出来ます。多様なニーズに対応できるマネキンとして市場での需要も高まり、いろいろなタイプの抽象的な様式の顔やボディのマネキンが数多く使われるようになり今日にいたっています。

開発に際して、メーキャップを必要としないマネキンを積極的に開発する事はメークに携わる人達にとってはかなり抵抗が有ったようですが、新しいタイプのマネキンを開発する事は、従来のサンプルメークをコピーする量産作業が主であった彩色の仕事から、よりクリエイティブな仕事へと活躍の場を広げる事にもなりました。

ますます多様化が進む今日では、幅広く多様なメークの技術や塗装の技術が求められており、マネキンメーカーの中でも彩色の仕事は市場と最もかかわりの深いセクションとしてとても重要な役割を担っています。

  • 写真上より:
     ・1977年 (株)七彩
      FIGURE MANNEQUIN カタログより
      原型制作 欠田 誠

     ・1977年 新宿伊勢丹デパート
      マネキン表面・クロームメッキ仕様