「マネキンの話 ーマネキン作家が語るー 欠田 誠」

第40話 目と唇の表現 マネキンで作る形と色

人の顔で最も印象的でその人らしさを感じるのは目と唇でしょう。女性が化粧で特にこだわる部分でもあります。マネキンの顔を作る場合、とても重要で、興味深いところです。注意深く観察すれば人の唇の形は実に多種多様で更に口紅の色や其の塗り方によって表情が変わります。粘土で形を作る場合かなり誇張した表現をして効果的な部分だと思います。其の時代の風俗や好みによって、好まれる唇の形が変わってきました、顔の中で唇の表現はとてもアピール力があります。

かつて1988年に黒人をモデルにした個性的で独創的なマネキン「ノープロブレム」を日本のマネキンメーカー(ヤマトマネキン)が制作し、斬新なマネキンとして評価され市場で多く使われました。然し、黒人の唇の特長を極端に誇張した表現が、人種差別だという批判によって生産を中止したエピソードなどが思い出されます。

目はその人の感情や気持ち、人の本心を正直に表現するもので、目はうそを付かないとか、目を見れば分かるとか言われる所以だと思います。一方、目は常に能弁に表情を変えるもので、幸せそうな目、悲しそうな目、淋しそうな目、恐怖の目、等々、目の表情が常に変化することは生きている証でもあります。

これらの表情をマネキンの造形で表現する事はとてもむつかしいことでむしろ不可能な事だと思います。刻々変化する表情を形に固定化して表現することは今日のマネキンには不都合なテーマでは無いかと思っています。

然し、このような表情やポーズをテーマに作られたマネキンが無かったわけではありません。それは1970年半ば海外のマネキンが競って導入されエキサイティングでドラマティックなディスプレーが氾濫した一時期、ヒンズガール社が制作した大きく口を開けて笑うオーバーアクションなポーズのマネキンなどがありました。これらのマネキンは日本の市場で一時ブームになりましたが、短い期間で姿を消しました。

目はその人の人生、人格、教養、など、その人の人柄が表われます。これらがヒントになってマネキンの顔が作られます。

マネキンのメークはあらゆる絵の具や工法を使って、人間の肌では考えられないマネキンならではの表現が可能です。マネキンの瞳の色は人間の瞳の色にこだわらず、ファッションやディスプレーを想定していろいろな色の表現を楽しむことが出来ます。マネキンの彩色で瞳をどう表現するかは其のマネキンの性格を決定するほど重要なことです。彩色をする人の技術の差が最も現れるところでもあります。今日カラーコンタクトを使って黒目を大きく見せたりエアーブラシを使ったメークなどマネキンのメークの技法が実際に女性のメークに生かされている例を見ます。女性がより美しくおしゃれな女性が増えることは嬉しいことです。どんなに装うとも人の目はその人の人格、人柄を正直に表わすもの、心を磨き高める努力がオシャレ心に通じるのでは無いでしょうか。

  • 写真:
     1995年マネキン用の義眼を開発する為に考案された瞳の図柄

      デザイン・中村 貢     提供・筆者