「マネキンの話 ーマネキン作家が語るー 欠田 誠」

第34話 職人の道具

12月に放映予定の、ヒストリーチャンネル『職人の道具』と言う番組でマネキンの原型制作の過程を(粘土制作の段階からFRP樹脂になった原形に彩色をして完成させるまで)紹介される事になり、そのための作品を秩父のアトリエで制作する日が続いています。マネキンに関することがテレビなどでたまに紹介されることは有りますが、マネキンがどんな道具を使って作られるのかというテーマで紹介されるのは極めて珍しい事だと思います。私の知る限りでは恐らく初めての試みでは無いでしょうか?

この機会に自分の持っている道具をあらためて見直してみると実にさまざまな道具があり、似たような物や使わない道具も多く、中でも好んで使う道具は限られている事に気がつきます。マネキンの原形の作り方は基本的には彫刻家が粘土で人体彫刻を作るいわゆる塑造と変わりません。然しマネキンは服を着せる為のサイズなどの制約やディスプレイに使うための制約などの多い造型です、更に企業内でのより効率の良い制作方法や便利な道具などが必要だと私は思っています。

私がそのような事を強く意識するようになったのは1958年、始めてフランスのマネキン作家ジャン ピエール・ダルナ氏のマネキン制作に接した事や、1963年スペインのマネキン会社で一年間ダルナさんのマネキン制作に協力した体験から学んだ事がその後の私のマネキン制作の基礎になっているからだと思います。

それまで日本でのマネキンの原型制作には正式な作り方と言うものはとくに無く、美術学校で人体彫刻を作ってきた延長で、それほど作り方や道具等のこだわりは無かったようです。粘土は木や石や鉄などと違って特別な道具や知識が無くても誰でも自由に造型が出来る扱いやすい素材です。粘土で物を作る場合、石彫や木彫のように素材を生かすとか素材を選んで形を作るとかいった発想は無く、特にマネキンの造型では粘土は素材と言うよりも形を作るための道具と言えるのではないでしょうか。粘土には粘土特有の性格が多くあります。其の特性を生かして造型する事が粘土制作の良さだと思いますが粘土を使いこなすことは結構難しい事です。いろいろな失敗を経験しながら粘土との良い付き合い方を会得していく事になります。そのために自分にあったより便利な道具を使いますが、粘土による制作は手で作ることに良さがあり道具に頼ることは良くないと考える作家も居ますし、手で制作した指の跡(タッチ)も表現の一部と考える彫刻家も居ます。

物作りに道具を重視し道具を大切にする考え方はもともと職人の世界に根ざしたものだと思います。マネキンの造型はアート性の強い造型でありながら同時に商品としてすぐれたデザイン性を持ったものでなくてはなりません。マネキン制作には職人的な技術を要する部分が多くあります。道具をうまく使いこなすことは大事な事ですが、良い道具を使ったからよい作品が作れるわけでは無いし、出来の悪い作品を道具のせいにすることも出来ません。自分の感性こそ最も大事な道具だと言えるかもしれません。

今回の撮影が順調に進めば11月中頃には作業が終わり12月上旬、月曜日から金曜日まで毎晩5分ずつに分けて放映される予定です。