「マネキンの話 ーマネキン作家が語るー 欠田 誠」

第3話 マネキンと衣装

このエッセイはマネキンの歴史をたどりながら、今日までの、マネキン制作にかかわる私の体験を通してマネキンの世界を紹介出来たらという思いで、始めましたが、私の著書(・マネキン美しい人体の物語・晶文社)と重複してしまうことが多いので、今後は現在マネキン制作を続けながら思うこと、感じることを気楽に綴り、過去ではなく現在を、そして未来を、語ることが出来たらと思います。今回は服を着せるという、マネキン独自の役割について、お話したいと思います。

今、街では顔の無いマネキン(ヘッドレスマネキン)や抽象的な顔のマネキンなどいろいろなマネキンを見ることが出来ますが、どんな様式のマネキンであれ衣装を引き立たせて見せるというマネキンの役割に変わりはありません。

マネキンは服を着せるためのものですが、その服を作るデザイナーはマネキンに着せるために服を作るわけでなく、人に着せるためにいろいろな思いを込めて、デザイナーは服を作るわけで、そんなデザイナーの思いやコンセプトをより効果的に表現するために、また、独自な店のイメージやブランドのイメージを表現するために、いろいろな異なった様式のマネキンが求められることになります。特別に大きいサイズの服を着せる為のマネキンや、小さいサイズの服のためのマネキンもありますが、一般的には9号サイズ(普通サイズ)の服がフィットして着られるようなサイズでマネキンは作られます。そのためにマネキンの造形にはサイズによる制約があります。カタログには9号サイズの服を着ることを前提に、せいぜい、身長、バスト、ウエスト、ヒップ、のサイズを表示する程度ですが、マネキンを作る場合には、はるかに多くのサイズの制約があります。身長、バスト、ウエスト、ヒップ、肩高、胸高、股下、膝高、バストポイント、肩幅、袖丈、上腕丈、着丈、他に頭の回りや首周りや足や腕周りのサイズなど、更に足のサイズやヒールの高さなど多くのサイズがあります。これ等のサイズは、マネキン造形のため参考資料ではありますが、あくまでも服を着るためのサイズ,帽子をかぶるためのサイズ、靴を履くためのサイズですので、これを無視して作るわけには行きません、然し人体は、寸法は同じでも形は決して同じでは有りません。そこが造形のポイントになります。サイズに忠実に作ったからといってよいマネキンが出来るわけでは有りません。原型作家はそのマネキンの使われる状況や着せる衣装を想定して創ります。然し作者の手を離れ商品として市場に出荷されたマネキンは、何処でどんな服を着せられ、どんな使われ方をされるのかは、わかりません。私は、マネキン美は、服を着せることによって完成するものだと思っています。マネキンがよいクライアントや良いデザイナーに恵まれることはとても重要なことだと思います。マネキンはいろいろな場所でいろいろな人と関わりながら試され育てられながら独自の運命をたどるものです。ファッションは常に移り変わります。良いマネキンは流行や時代の好みにも結構うまく対応して逞しく生きるものです。マネキンは単に服を着るだけでなく魅力ある雰囲気をかもし出す、新たなファッション空間を作り出す力を持っていなくてはなりません。そんなマネキンに着せた服は良く売れるという販売促進の役割があります。マネキンは美しいだけでなく、魅力的でなくてはならない、プロポーションやサイズを超えて滲み出る魅力、着映えのするマネキンを作ることは容易な作業ではありません。マネキンは服を着せるためのものですが。服を表現するものでなくてはなりません。マネキンには個性が無くてはなりません。服の個性とマネキンの個性との、ぶつかり合いの中から魅力あるファション空間が生まれます。